
属名にあるオキムム(Ocymum)はマテイオリュス(Mathiolus)によればギリシア語の“香りを楽しむ”に由来すると言われています。
葉にクローブに似た甘い香りを持つこのハーブは古くから尊ばれてきました。
バジルはおそらくインドからアレキサンダー(紀元前356-323)によってヨーロッパに伝えられたと思われ、イギリスには16世紀、アメリカへは17世紀に渡来しました。
西洋での使用は比較的新しいことになります。
インドではバジルの1種、ホーリー・バジルがクリシュナ神とヴィシュヌ神に捧げられた神聖なハーブとなっています。
ヒンズー教の聖なるハーブであり、アーユルヴェーダ医学では、トゥルシ(Tulasi)と呼ばれ、ジュースに用います。
今でもこのハーブが天国への扉を開けるとして亡き人の胸にこの一葉が置かれるとのことです。
ペルシア、エジプトでは、墓に植える草とされています。
ボッカチオはデカメロン、リザベータの物語の中で「彼女は恋人の頭をバジルの壷に埋め、涙を流した」と書いています。
キーツはこの話を借用して「イザベラ、バジルの壷」(Isabella,or the Pot of Basil)の詩を書きました。
古代ギリシアではバジルの語源ともなるbasileus(王)といったのは、パーキンソンによれば、王宮にふさわしいほど素晴らしい香りを持ち、また王室の薬物、膏薬にこの草を用いたからとのことです。
人をにらみ殺すという伝説怪物バジリスク(basilisk)に語源があるとの説もあります。
これは「バジルの1枝を鉢の下に置けばサソリに変わる。
「この草をかいだだけで脳の中にサソリがわく」といった古い迷信に基づいているようです。
古代ギリシアでは憎悪、不幸の象徴とされ、“貧乏”はぼろをまとって、バジルの傍に座った女として描き出されました。
また罵ったり、嘲ったり、悪態を付きながら種子を播かないと発芽しないとも言われました。
古代ローマ人も罵れば罵るほど良く繁ると信じていました。
ディオスコリデスは、バジルを服用することを禁じていましたが、プリニウスは、気絶した人にバジルを入れた酢を嗅がせるように勧めています。
一方、“愛の印”“惚れ薬”としての楽しい迷信も多く残っています。
モルダヴィアではこの草の1枝を手渡された若者は、その娘を永久に愛するようになるといいます。
イタリアではバキア・ニコラ(bacia・nicola)キス・ミー・ニコラ(Kiss me,Nicholas)と呼ばれることもあり、恋人に会いに行く若い娘はこの草を髪飾りに付けていくのです。
クレタ島では、“涙で清められた愛”(Love washed with tears)の象徴とされます。
イギリスでは気象上、現在ではほとんど栽培されてませんが、中世ではハーブガーデンに植えられていた歴史があります。
ストローイング・ハーブのひとつであり、香水、ポプリ、花束にも利用された他、独特の甘さがソースや飲物の風味付けにも好まれます。
わたしはジェノヴァで食べたジェノベーゼが大好物です。
バジルの仲間には「ダークオパールバジル」「レモンバジル」「ブッシュバジル」「レタスリーバジル」「ホーリーバジル」などがある。
バジルのいろいろ